- 10月4日(日)
- 若⼿研究者フォーラム
- 16:40−17:10
- 〈オンライン2〉美術2
ジャンバッティスタ・ティエポロの描法と主題へのアプローチについての一考察
―レンブラント作品からの影響分析
阿部 桃子(東北大学)
18世紀ヴェネツィアを代表する画家ジャンバッティスタ・ティエポロ(Giambattista Tiepolo, 1696-1770)の描き方は、「素早さと決断力 una spedita e risoluta」があり、「創意と奇妙さ le invenzioni e le bizzare」に特徴があったという(Da Canal, 1809)。本発表では、ティエポロが、素早い筆致による即興的なスタイル、および創意や奇妙さを感じさせる主題へのアプローチを確立していく際に、レンブラント作品を意識していた可能性を指摘し、分析する。Robinson Franklin(1967)などの先行研究においても、レンブラントの版画をティエポロが参照した可能性は指摘されているが、主に「カプリッチ」「スケルツィ」など後期のエッチングシリーズの主題の選択における影響源と考えられ、「素早い筆致」、表現の「創意」や「奇妙さ」とは結びつけられてこなかった。対して本発表では、第一に、レンブラント作品がティエポロの素早い筆致の影響源になった可能性に新たに注目する。第二に、レンブラント作品が、ティエポロの絵画の主題へのアプローチに影響を与えた可能性を二人の作例から具体的に検証する。
ティエポロの初期の油彩画《聖トマスと聖ヨハネ》(1715年頃)に見られる素早い筆致は、同時代のジョバンニ・バッティスタ・ピアツェッタの入念に仕上げられた筆致とも、ヴェネツィアルネサンスのティツィアーノのような激しく渦巻くような厚塗りの筆致とも異なり、薄塗りで平面的に感じられる。ヴェネツィアの伝統とは異なるその筆致から、ティエポロがヴェネツィア以外の美術にも目を向けようとしていたと考えられる。17世紀後半には、レンブラントのエッチングの技法は、「とても奇妙な技法 una bizzarissima maniera」として、イタリアに伝わっていた(Baldinucci, 1667)。また、ナポリの画家ルカ・ジョルダーノは素早い筆致の画家として知られるが、レンブラントの画風を真似た作品を残している。ティエポロの素早い筆致は、イタリアにまで名を轟かせているレンブラントやレンブラントを真似た巨匠たちと競合できるような描き方を模索する中で形成されたと考えられる。
レンブラントの影響は、《ダナエとユピテル》(1736年)における主題の扱い方からも傍証されうる。1720年頃、蒐集家アントニオ・マリア・ザネッティは、レンブラントの版画約400枚からなる版画集を購入した。ティエポロはザネッティと親交があったため、レンブラントの版画《ユピテルとアンティオペ》(1659年、B.203)を目にした可能性がある。両者の作品のユピテルの姿は、理想化された神の姿からは程遠い姿として描かれている点 がよく似ているが、その「創意」は当時の人々の目には「奇妙」に映っただろう。そしてこの例は、ティエポロが描法においてもレンブラントを意識した可能性を示唆する。
本発表では、これらの観点からティエポロの素早い筆致および主題の扱い方におけるレンブラント版画の影響を明らかにしていきたい。
発表資料PDF:「ジャンバッティスタ・ティエポロの描法と主題へのアプローチについての一考察
―レンブラント作品からの影響分析:阿部 桃子(東北大学)」
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