10月4日(日)
一般発表
14:55−15:35
〈オンライン2〉芸術史

1980年代のアート・アクティヴィズムにおけるコミュニティ概念

松本 理沙(京都大学)

参加型アートやソーシャリー・エンゲージド・アート(SEA)に関する議論の深化に伴い、近年 1980 年代アメリカにおいて興隆したアート・アクティヴィズムへの関心が高まっている。トム・フィンケルパール(Finkelpearl, 2013)が観衆の参加や政治性という観点からこれらの芸術SEAの源流に位置づけたように、アート・アクティヴィズムはSEAとの連続性から語られる傾向にある。一方で、両者の差異は未だ十分に論じられていない。それゆえ本発表は、SEAを論じる際に重要な論点として挙げられるコミュニティに着目し、アート・アクティヴィズムにおけるコミュニティ観を明らかにすることで、アート・アクティヴィズムとSEAの相違点を浮き彫りすることを目的とする。

はじめに、芸術業界における女性蔑視と人種差別への異議申し立てを行ったゲリラ・ガールズについて考察を行う。彼女らはギャラリーが立ち並ぶソーホーやイーストヴィレッジを拠点に、芸術業界に蔓延る差別を告発するポスターを制作した。こうした活動は芸術関係者らの意識改革に寄与した一方で、彼女らの活動が芸術業界に留まることもまた意味して いた。この両義性を念頭に、ゲリラ・ガールズにおけるコミュニティ観について考察を行う。それによってゲリラ・ガールズにとってのコミュニティの意義を浮かび上がらせるとともに、そこに彼女らの活動に内在するジレンマが表されていたことを明らかにする。

続いてニューヨークの芸術家集団グループ・マテリアルにおけるコミュニティ概念についての分析を行う。彼らは活動の最初期である 1980年から81年にかけて、ヒスパニック系の居住地にギャラリーを構え、住民らを巻き込んだ展覧会を開催していた。しかしこの時期の活動が社会全体の変容に寄与できなかったことへの反省から、82年以降は様々な地域で活動を行うようになる。1982年から 1994年まで断続的に行われた《DA ZI BAOS》、《民主主義の壁》といった一連のポスター作品は、ウェールズの首都カーディフやカリフォルニアのバークレーにおける地域住民の協力によって制作されている。初期の反省に基づき制作された《民主主義の壁》における住民らについて考察を行うことによって、コミュニティの参与が彼らの実践の社会的意義を担保するために肝要であったことを詳らかにする。

以上2つのグループに共通するのは、何らかのコミュニティに基づいた作品を制作しつつも、作品がもたらす社会的変容はそのコミュニティを超え出た範囲に及ぶことが期待されていたという点である。最後にSEAにおけるコミュニティとの比較を行うことによって、この点がアート・アクティヴィズムとSEAの相違点として浮かび上がることとなるだろう。

発表資料PDF:「1980年代のアート・アクティヴィズムにおけるコミュニティ概念:松本 理沙(京都大学)」

10.04
プログラム一覧へ

オンライン参加方法

ZOOMを利用して開催します。

  参加方法のマニュアルをPDFでダウンロード

オンライン参加方法