10月4日(日)
一般発表
14:55−15:35
〈オンライン1〉美学

占術と/の美学
―A.G.バウムガルテンにおける〈予兆の記号術〉の構想とその帰趨―

井奥 陽子(東京藝術大学)

初期近代の西洋では、いわゆる科学革命による近代科学の成立に伴って、錬金術と化学、占星術と天文学などの分離が決定的となった。各々の前者は学問の地位から脱落し、前近代的な魔術とみなされることになる。本稿は、この〈魔術から科学へ〉と表現される思想史上の変動のうちに、A. G. バウムガルテン(1714-62年)の美学を位置付ける試みである。

バウムガルテンの美学は、未完の主著である『美学』(1750/58年)や、その萌芽となった教授資格論文の『詩に関する少なからぬことについての哲学的省察』(1735年)から、文学を主な対象にした詩学・修辞学的な議論が中心であったとみなされている。しかしながら、1740年前後に執筆された遺稿の『哲学的百科事典の素描』(1769年)と『一般哲学』(1770年)に記された美学体系では、詩学・修辞学はあくまでも体系の一部であり、むしろ紙幅の大半は「占術」(mantica)と「記号術」(ars characteristica)に割かれる。本稿がとくに注目するのは、前者である。

美学が 18世紀ドイツにおいて哲学の一学科として誕生したとき、占術が主要部門のひとつを担うべく画策されていた。この問題は従来あまり知られていなかった、あるいは少なくともほとんど論じられてこなかった。先行研究ではペレスが、バウムガルテンの美学を学問体系全体から捉えようとする論考のなかで、遺稿で占術に「並々ならぬ力点」が置かれていることに着目した。ペレスの論考は、占術の対象が自然現象であることを論拠に、占術は自然学への予備的役割を果たすがゆえに道具哲学である美学に含められた、と説明を与えた点で重要である。しかし彼女は、『美学』に見受けられる占術への否定的な言及をバウムガルテンの基本姿勢とみなし、バウムガルテンは占術へ興味を示しつつも、古代人の占いや予言は迷信であり、ただ「自然の光」のみが決定的に重要だと考える、啓蒙主義的な態度を明確にとったと主張する。

対して本稿では、バウムガルテンが占術を美学に包摂した根拠を「記号」(signum)ないし「予兆」(prognosticon)と「技術」(ars)の概念に見出し、バウムガルテンによる「占術の美学」は占術を「予兆の記号術」として技法化ないし合理化する試みであった、という見解を提示する。また、占術に対するバウムガルテンの記述を年代別に検討することで、占術への強い関心が遺稿以外では顕在化していないことの意味を探る。それによって、バウムガルテンによる「占術の美学」の構想は、『美学』の公刊に際して表向きは断念されたが、占術という理性の及ばない領域を掬い上げることができないか、『美学』の筆が止まる直前までバウムガルテンが思いあぐねていたことを示す。本稿の結論は、学科としての美学が啓蒙と魔術の緊張関係のうちに誕生・発展したことに光を当て、バウムガルテンへ立ち返ることによる美学の新たな可能性も示唆するだろう。

発表資料PDF:「占術と/の美学
―A.G.バウムガルテンにおける〈予兆の記号術〉の構想とその帰趨―:井奥 陽子(東京藝術大学)」

10.04
プログラム一覧へ

オンライン参加方法

ZOOMを利用して開催します。

  参加方法のマニュアルをPDFでダウンロード

オンライン参加方法