10月4日(日)
若⼿研究者フォーラム
12:45−13:15
〈オンライン3〉現代美術2

『聖オルランの再受肉』における聖遺物
―《聖骸布》の視点から―

野崎 梢(京都大学)

フランスの現代アーティストであるオルラン(ORLAN,1947-)は、整形手術により身体の改造を行う一連のパフォーマンスによって知られる。この代表作は 1990年5月30日に開始され、『聖オルランの再受肉』(La Réincarnation de saint Orlan)と名付けられた。オルランはこの作品を従来のボディーアートではなくカーナルアートであると述べ、自身の身体を人格的固有性から切り離された「レディ・メイド」として扱うことを宣言した。その上で、レオナルドの《モナリザ》の額、ボッティチェッリの《ヴィーナスの誕生》の顎など、西洋美術を代表する女性の顔の各部を自身の顔にモンタージュした。また同時にオルランは、手術の際に流れた血などを材料にキリスト教を下敷きにした「聖遺物」を複数制作した。

先行研究の多くは、手術のグロテスクな映像に着目し、身体のサイボーグ化やフェミニズムの観点からオルランのパフォーマンスを論じてきた。しかしこうした研究の問題は、オルランが手術と同時に制作していた「聖遺物」の意義を閑却することで、オルランのパフォーマンスが持つ射程を十分に捉えきれていないことにある。それゆえ本発表では、これまでほとんど注目されてこなかった『聖オルランの再受肉』における「聖遺物」の中でも《聖骸布》(Holy Shroud,1993)に着目し、オルランのパフォーマンスにおける宗教的コンテクストを明らかにすることを目標とする。

4度目の手術「成功したオペレーション」(1990/12/8)にて、オルランは布に直接顔を押しつけ、新たに獲得した唇の痕跡をマークした。これは8度目の手術「遍在」(1993/11/28)の際に、オルランがガーゼの布に顔を押し付け、血と痕跡を残したものの前身である。ここに共通するのは、加工されていく顔の「痕跡」を残すという点である。ガーゼには後にオルランの顔の画像が印刷され、《聖骸布》と名付けられた。この名称は、キリストの死体を包むことで傷跡の痕跡を残し、その後復活した証拠とされてきたトリノの聖骸布を想起させる。またオルランの《聖骸布》は、血の刻印や、そこに印されたものが顔のみであるという点から、聖ヴェロニカの聖顔布をも想起させる。ガーゼに浸された血が乾き、まるで皮膚の仮面のようである《聖骸布》が『聖オルランの再受肉』において、どのような意味を担うのか明らかにしたい。

発表資料PDF:「『聖オルランの再受肉』における聖遺物
―《聖骸布》の視点から―:野崎 梢(京都大学)」

10.04
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