10月4日(日)
一般発表
11:00−11:40
〈オンライン2〉音楽理論

ニューミュージコロジーの時代におけるフォーマリズムの在り方
― ヘポコスキーのソナタ理論から―

加藤 幸一(University of Southampton)

音楽学者・理論家ジェームズヘポコスキーは自身のソナタ形式論の集大成となる『ソナタ理論の要素 Element of Sonata Theory』(2006)(以下、『ソナタ理論』と略称)をウォーレンダルシーとの共著によって出版した。『ソナタ理論』は主に 18世紀末から 19世紀初頭にかけての膨大な楽曲を対象にした体系的なソナタ形式論であり、現代における“新形式主義”を代表する理論である。

ヘポコスキーがソナタ形式に関心を寄せたのは 1990年代初期からである。彼の考察対象の楽曲は主に 20世紀初頭の作曲家(特にリヒャルトシュトラウスとシベリウス)で、「モーダニズムのコンテクスト」における“ソナタデフォーメーション”(1993)であった。それは文学理論家のヤウスが文学作品の受容史において提唱する概念を基に、教科書的手 本となる通説的(ヘポコスキーが唱える「事前知識  prior  knowledge」)形式論と個々の作曲家が創作する独自の作品との“対話的”観点によるデフォルメであり彼の理論の柱でもある。ヘポコスキーの初期考察においては標準型(norm)とされる古典形式は自ずと規範と示唆されるにとどまっていたが、90年代半ばより本格的に「標準型」とされる18世紀末の古典期のソナタに研究対象を移行した結果、彼の理論の根幹の一つであるデフォルメへのスタンスの変化を迫られた。

筆者の観点からは、ヘポコスキーの問題点は、彼の出発点であった研究分野にあると考える。ソナタ研究以前には、ヘポコスキーは主に1980年代に、イタリアオペラ(特にヴェルディ)の専門家として研究者の道を歩み確立し、同時代に台頭し確立した通称“ニューミュージコロジー”の学派に属していた。このことは、後の彼の古典形式へのスタンスや形式観に顕著に表されている。また、オペラ研究者からの観点において、循環的要素である“ローテーションフォーム rotational form”という彼の『ソナタ理論』の根幹でもある形式概念はイタリアオペラのアリア構造との繋がりを見出し、その観点から捉えると、ヘポコスキーという元来オペラ研究者から出発した学者が、器楽曲、しかも「西洋芸術音楽において最も有機的な形式の一つ」(James Webster)であるソナタ形式を声楽領域の研究を介して養われた観点から再体系化したということになる。器楽曲と比較して劣等的なレッテルが張られる傾向のある声楽分野を専門とするというバイアスもヘポコスキー独自の観点による器楽曲の形式論に表れている。

本発表では、上記の点を踏まえて、ヘポコスキーの理論形成の過程において重要な論文に触れながら、デフォルメの概念が如何に変遷したのかを指摘し、オペラ研究者としての視点が音楽学における“器楽対声楽”のヒエラルキー的図式を意識しながらソナタ形式観にいかに反映したのかを論考する。

 

発表資料PDF:「ニューミュージコロジーの時代におけるフォーマリズムの在り方
― ヘポコスキーのソナタ理論から―:加藤 幸一(University of Southampton)」

10.04
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