10月3日(土)
若⼿研究者フォーラム
17:00−17:30
〈オンライン3〉美術1

ウォルター・リチャード・シッカート作《イングリッシュ・エコー・シリーズ》にみる特異性
―世界大戦間期イギリス画壇におけるモダニズム概念をめぐる考察―

松崎 章人(関西大学)

イギリスを主な拠点としていた画家ウォルター・リチャード・シッカート(1860~1942)が、1920年代後半から 1940年にかけ、ヴィクトリア朝の刊行物などにおけるイラストレーション等を題材に制作した作品群は、《イングリッシュ・エコー・シリーズ》(以下《エコーズ》)と名付けられている。《エコーズ》は、ヴィクトリア朝時代の文化的風潮を代表するメロドラマ風物語のような、理解しやすく大衆的な作品を特に題材としている点が大きな特徴である。

シッカートの《エコーズ》は、後のポップアートを予告するかのような作品群であることなどが研究者の間で指摘され、近年再評価や再考の動きが起きている。しかし 20世紀においては、前世紀の刊行物を油絵風にリメイクした点で、画家の高齢化による独創性の枯渇などと評され、重要視はされていなかった。その最初期の例として、ブルームズベリー・グループに属し、当時のイギリスでモダニストとされていたクライブ・ベルとヴァネッサ・ベルの夫妻は、共に《エコーズ》を強く批判している。こうしたシッカート批判は、《エコーズ》が発表される前の 1925年に、彼らの中心人物であったロジャー・フライが発表したシッカートへの批評文に端を発する。マーリン・セラーは、ブルームズベリー・グループのメンバーによるこれらの言論以降、シッカートへのモダニスト達の評価が変化し、20世紀後半まで続く《エコーズ》と晩年のシッカート批判に繋がっていく、と自身の著作の中で述べている。

ヴィクトリア朝的芸術への反発を謳うブルームズベリー・グループの教義を鑑みれば、彼らの痛烈な批判は理解する事ができる。しかしながら、《エコーズ》が持つ特徴とフライの主張を比較すると、ある矛盾が浮かび上がる。1939年に死後出版された『最終講義集』のセンシビリティという章において、フライは芸術作品とそのコピーに関して、コピーもまたオリジナルと同じように制作者の感受性を示すこと、またオリジナルよりも優れたコピーが存在することを断言しているのである。一方の《エコーズ》は、過去の作品をトレースし制作したある種の「コピー」である。つまり当時のイギリスにおけるモダニスト達の教義には、実はシッカートと《エコーズ》を受け入れ評価する土壌が存在していたと考えられるが、そうだとすればなぜ、フライたちは《エコーズ》を評価できなかったのだろうか。

本発表は、こうした問題意識のもと、まず《エコーズ》に対する同時代の芸術家や20世紀の研究者による評価、また当時イギリスでモダニストとされていた画家たちの実際の作品などを検討材料に、世界大戦間期のイギリス画壇におけるモダニズムとコピーの捉えられ方を比較、分析する。そのうえで、先行研究ではあまり論じられていなかったフライたち同時代人のイデオロギーと《エコーズ》の関係から、戦間期のイギリスで《エコーズ》がどのように革新的であったのかを明らかにする。

発表資料PDF:「ウォルター・リチャード・シッカート作《イングリッシュ・エコー・シリーズ》にみる特異性
―世界大戦間期イギリス画壇におけるモダニズム概念をめぐる考察―:松崎 章人(関西大学)」

10.03
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