10月3日(土)
若⼿研究者フォーラム
16:25−16:55
〈オンライン1〉美学1

モチーフと表象の何が似ているのか
─メルロ゠ポンティにおける種性質の実在論―

常深 新平(慶應義塾大学)

画像経験を考える時にしばしば問題となるのが、絵に描かれる物理的対象としてのモチーフと描かれた画像としての表象が似ていると経験されるのはなぜか、というものである。本発表は、モチーフと表象が似ていると経験されるのは、この両者が色や形と同じく種性質を共有しているからであるのかどうかを、フランスの現象学者モーリス・メルロ゠ポンティ(1908-1961)を手がかりに検討する。

色や形などの可感的性質が知覚可能と主張されることは一般的である。これに加えて、可感的性質以外の高次の性質、とりわけ、具体的な個物がもつ例化された性質(種性質)をも知覚していると主張する立場がある(cf.  源河 2017)。例えば、多くの種の木々がある林の中で「これは松である」と判断がなされる時、その判断は松の色や形といった要素を推論することによってではなく、「松さ(松性)」の知覚によってなされうると主張する(cf. Siegel 2006)。すなわち、赤さや丸さといった可感的性質と同じように、「松さ」や「リンゴさ」といった種性質も知覚できると主張するのである。この立場こそが、種性質の知覚可能性を擁護している立場である。

さて、モチーフと表象が似ているという判断に至るのはなぜかという問いに対して、メルロ゠ポンティは『眼と精神』において、両者が物理的に似ていないがゆえに推論や解釈によってはじめて似たものと判断されるという論法をとるデカルトを批判して、以下のように答える。モチーフを示す画像は、身体を介して実際にモチーフに類似して世界に存在している。つまり、彼によれば、描かれるモチーフであるリンゴと、表象である絵のリンゴが似ているというのは、モチーフと表象に対する身体の構えあるいはモードが似ているからである、と主張されるのである(cf. 國領 2015)。このような主張がされる時、彼は、モチーフと表象の両者が共有する身体的な反応を引き起こす性質を、上記の種性質のように考えているのである。

メルロ゠ポンティは加えて、モチーフと表象の両者が、色や形と同じような意味で共通した種性質を主体と独立に備えており、実際に類似したあり方(存在)をしている、とまで主張していると思われる。だが、この立場は、モチーフと表象の間での経験の差異への説明や、種性質の定義自体への説明にも重大な影響を及ぼすことになるのだ。

よって、本発表は以下の手順で進められる。まず、種性質における議論を整理する。次に、メルロ゠ポンティは、モチーフと表象が似ていると知覚される事態をも、両者に共有された身体的な反応を引き起こす性質を種性質のように語ることによって、説明することを確認する。最後に、彼はモチーフと表象の両者に、色や形と同じく種性質が共通して存在するとまで主張することを確認する。その上で、その主張から生じる問題について示す。

発表資料PDF:「モチーフと表象の何が似ているのか
─メルロ゠ポンティにおける種性質の実在論―:常深 新平(慶應義塾大学)」

10.03
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