10月3日(土)
若⼿研究者フォーラム
15:50−16:20
〈オンライン1〉美学1

ハイデガーの芸術論における裂け目(Riß)の概念について
―伝統的形而上学との比較の観点から―

阿達 佳子

「芸術作品の根源について:最初の仕上げ」(Vom Ursprung des Kunstwerkes: Erste Ausarbeitung, in : Heidegger Studies Vol. 5, Berlin : Duncker & Humblot, 1989, S. 5-22)を含め、ハイデガー自身によって校閲されたいくつかのテクストが存在する。第一稿とされているのは、1935年フライブルク芸術学協会で行われた講演、1936年にチューリッヒにおいて行われた講演である。同年にはフランクフルト・アムマインにて3回の連続講演が行われ、そのテクストに後記を付したものが1950年『杣径』(Holzwege)に収録されている。さらに、1960年には、補遺を加えてレクラム社版が単独本として公刊された。本発表では、このようなテクスト成立史の過程において登場した「裂け目(Riß)」という概念を考察することによって、伝統的形而上学の芸術観とは異なるものとして提示されたハイデガーの芸術論におけるかたち(Gestalt)の問題を明らかにすることを目的とする。

「裂け目」の概念とかたちの問題を考察するにあたり、まずハイデガーの基本的な態度としての伝統的形而上学への批判へと目を向ける。伝統的形而上学における「形相‐質料」の構造に対するハイデガーの一貫した批判は、眼前的な性格をもつ形相が存在を第一義的に規定しているという目的論的な存在論にある。そのような構造を基点に考えられる人間と物との関わりは、「~のため」という目的、すなわち、有用性を伴い、世界内部的な意味連関において道具的なあり方で現れてくるとされる。その際、素材的なものとしての質料は道具のうちに消費され、埋没するほど、道具としての本来的なあり方をなしているとされる。

一方『根源』では、芸術作品において形作られる素材的なものは、道具の素材的なものとは区別されたものとして「大地」と呼ばれる。大地は道具において消費し尽くされる素材的なものとは異なり、芸術作品のうちでそれに固有なあり方で立ち現れてくるものである。この固有なあり方を獲得するのは、自らを開く動性をもつ世界とのせめぎ合い(Streit)によってなされる。このとき大地は、自らを開く大地とは対比的に、自己閉鎖という性格を保持している。ここでは、大地の自己閉鎖という性格を大地の側の人間に対する意味の解明の拒否と解釈することで、ハイデガーが有用性連関からの差別化を試みた点を提示する。自らを開く世界と自らを閉ざす大地の闘争というせめぎ合いによって生じるものが裂け目であり、この裂け目が継ぎ合わされ、大地のうちに戻しおかれたものがかたち(Gestalt)であるとされる。

以上のように、伝統的形而上学の構造とは異なる芸術作品の規定としてハイデガーが「裂け目‐大地」という構造を提示したことを指摘し、さらに 1950年代の詩作の問題を扱った『言葉への途上』に目を向け「裂け目」の語の由来を含めて論じていく。

発表資料PDF:「ハイデガーの芸術論における裂け目(Riß)の概念について
―伝統的形而上学との比較の観点から―:阿達 佳子」

10.03
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