10月3日(土)
一般発表
14:50−15:30
〈オンライン3〉映画・映像

ジャナーン・アル・アーニのシャドウ・サイトIと湾岸戦争
―文化に植え付けられた他者の視線と権力/知からの脱却―

山崎 みず穂(森美術館)

ジャナーン・アル・アーニ(Jananne Al-Ani, b. 1966)のシャドウ・サイト I(Shadow Sites I)(2010)は、作家が 2007年から取り組んでいるプロジェクト、「消滅の美学:人のいない土地」(The Aesthetics of Disappearance: A Land without People)に含まれる初期の作品である。風や飛行機のエンジンの音と共に流れる砂漠の空撮映像は、ヨルダン南部、イスラエルの東側、パレスチナ人が占める地域を撮影したものであり、その場所はサウジアラビア王国、シリア、そして作家の母国イラクとの国境を有している。古代遺跡、道、田畑、建物などの被写体が、一定高度から近づくことなく淡々と描かれる。

約12分間の空撮映像から連想されるのは、1991年から始まった湾岸戦争で、初めて空爆がテレビを通じて世界中に報道された映像である。この砂漠の嵐と呼ばれる戦争を機に、視聴者は安全なお茶の間から世界で起きていることをほぼ同時に知ることができるようになった。それは自分の世界の延長線上での出来事と知りながら、自分の現実とはつながらない、非現実的なビデオゲームの世界の事象という感覚を視聴者へ与えた。画面上に映し出される敵を打ち抜く仮想現実と同じ眼差しが、空爆の様子を捉えたCNNの映像へ投げられ、この作品でも重複して現れる。

現実を非現実のものとして映し出すこの行為は、アメリカ合衆国という当時西洋の立場をとっていた国からの視点で一方的に描かれており、エドワード・W・サイードの名著『オリエンタリズム』の中で述べられているような、本質的に異なる「他者」という映し出しに他ならない。その中では地域の多重性、歴史や文化観といったものは排斥され、西洋よりも後発的な劣等者としての中東という位置づけがなされている。劣等という印象付けは、その地域の実際の姿を消し、報道するメディアの望む感情移入へと視聴者をいざなう行為であった。19世紀以降西洋は、誰にも所有されていない空白地帯として、湾岸戦争以降は戦場として、砂漠を眺めてきたとアル・アーニは述べる。しかし、この作品で映し出されている地は、誰にも占拠されていない未開の地ではなく、複雑な歴史を持ち、何千年と様々な人が行き交い、貿易をし、生活を営んできた土地である。この気づきが、ミシェル・フーコーの言う優劣を作り出す権力/知があてはめられた世界体制からの脱却の一例であろう。

本発表では、ある文化への歪曲がいかに文化の外に立つ他者の視線によって作られ、無意識のうちに内生しているか、そして、芸術を介して文化の実際を他者の視線を持って眺める者に示すことは可能かということを検証する。アル・アーニのシャドウ・サイト I は、鑑賞する者が、ある文化の外に位置する恣意的な他者による映し出しに既にとらわれているということ、そして芸術作品が文化に対する他者の抑圧からの脱却への一助となることを示しているのである。

 

発表資料PDF:「ジャナーン・アル・アーニのシャドウ・サイトIと湾岸戦争
―文化に植え付けられた他者の視線と権力/知からの脱却―:山崎 みず穂(森美術館)」

10.03
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