10月3日(土)
一般発表
13:20−14:00
〈オンライン3〉映画・映像

劉呐鸥の『現代映画』と映画出版の大衆的公共圏

李珂(リカ)(神戸大学)

本発表では、1930年代上海で活躍した新感覚派文人・劉呐鸥の映画美学とその影響を受けた映画雑誌『現代映画』を主にとりあげ、雑誌の目的、刊行状況、特徴、読者グループなどから検討し、当時の上海における映画出版による大衆的公共圏形成の一端を明らかにする。

中国初期映画史において最も印象的な出来事は、「ハードフィルム」と「ソフトフィルム」の論争であった。これは左翼知識人と新感覚派文人との間でなされた論争で、前者が映画の階級闘争機能とプロレタリア的属性を強調する一方、後者は映画にイデオロギーを植え付けることに反対し、映画は説教の道具ではなく、「目のアイスクリーム、心のソファ」という純粋な芸術として鑑賞すべきものであると論じた。これまで中国映画学者によって新感覚派に対する厳しいイデオロギー批判がなされてきたため、新感覚派文人たちの積極的意義について客観的な議論は十分に進んでいなかった。近年、ハーバーマスの公共圏理論に基づいて、新感覚派と左翼文人との論争を啓蒙的・知識的な公共圏への貢献として捉えた研究があったが、遊戯性と大衆性を擁護する新感覚派映画美学自体の意義が十分に認められたとはいいがたい。そこで本発表では新感覚派映画美学の本質について考察し、彼らの映画観と映画出版実践を具体的に検討することを試みる。さらに大衆的公共圏形成の視点から新感覚派映画美学の意義と社会的な機能を再考する。

劉の映画美学は、驚くべき近代性を示している。彼にとって映画の核心は「動き」=「生命力の表現」にあり、モンタージュ、カメラの位置、アングル、線と色、時間、そしてスピード、方向、エネルギーの変化によって生まれるリズムに対する感知が重視された。彼にとって、人間の感情の動きと興奮=「快感」を起こす感覚的物質的な近代性こそが現代生活と美学の核心である。また、「快感」は観客を惹きつけ、公衆を創造し、公共圏を構築することができる。劉が創刊する『現代映画』は、展示性と身体性、欲望と行為の指導、消費と社交空間の想像と拡大によって、物質的感覚的な近代性を一貫して追求した。感情、感覚的なネットワークを通じて、映画出版物は広範囲な受容と反応を促進し、一般読者の世界と直接関わっている。特に、女性消費者に対するアピールは、男性中心の視線や欲望による「モダン女性」の「誤読」と社会的な不安、家庭の私的領域から女性を解放し、「良師と益友」を得て、自分自身を反省し、より広い現代生活空間を想像・創造する「女性遊歩者」の存在を可能にした。この「女性観覧の解放運動」は、公共圏の変化、すなわち、経済的地位や教養のある男性を主体とし、読書、議論、創作で知識の啓蒙や理性的交流の場所から、日常生活に対する関心や消費行為、親密な関係の形成を通して集団的主体性を形成する大衆的公共圏への変化を促したのである。

 

発表資料PDF:「劉呐鸥の『現代映画』と映画出版の大衆的公共圏:李珂(リカ)(神戸大学)」

10.03
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