10月3日(土)
一般発表
14:50−15:30
〈オンライン2〉芸術と文化

文化的性質を含む作品の鑑賞における諸問題
―文化的借用の議論をてがかりに―

Jean Lin(東京大学)

本発表は、文化的性質―特定の文化に帰属させられうる性質―を含む作品が鑑賞される際に生じうる諸問題を明らかにすることを目的とする。その際、特に文化的盗用(cultural appropriation)―マジョリティ文化側の制作者がマイノリティ文化の性質を扱う行為、およびそれが道徳的に不適切であるとする見方―の議論に注目する。文化的盗用が行われた作品がどのように鑑賞されうるのかを考察することによって、文化的性質を含む作品一般の鑑賞において生じうる問題を明らかにできると発表者は考える。したがって、本発表では、芸術と文化的盗用について美学的な観点から論じた James O. Youngの著書Cultural Appropriation and the Arts(2008)を出発点として、文化的性質を含む作品が鑑賞される際に鑑賞者の判断に影響を与えていると考えられる三つの観点を提示する。その上で、それぞれの観点に即してYoungの理論の問題点を指摘し、それに対する解決策を提示すると同時に理論の再構築を試みる。

本発表の構成は以下のようになる。まず、制作者と鑑賞者の文化的アイデンティティが鑑賞に与える影響について考察する。その際、Youngが提示する美的ハンディキャップテーゼ(the aesthetic handicap thesis)の検討を通して、外部者には文化的性質をうまく扱うことはできない、という多くの鑑賞者が持つ先入観を明らかにする。次に、鑑賞者が作品をどの文化的なカテゴリにおいて捉えているかによって、作品の評価が大きく左右されうるということを指摘する。例えば「これは日本的な作品だ」というとき、作品は日本文化という文化的なカテゴリにおいて捉えられているといえる。この点に関   して、作品がどのカテゴリにおいて捉えられているかによってその解釈や評価は変化する、という見方を示しているKendall Walton(1970)やNoël Carroll(2009)などの論考を参照し、作品の文化的なカテゴリが作品の鑑賞に与えうる影響を示す。さらに、作品内において文化的性質が果たす機能に言及する。Waltonは、作品がどのカテゴリにおいて捉えられるかによって作品の美的性質が決定づけられることを示唆しているが、この関係性は文化的カテゴリと文化的性質にも当てはまるのではないかと発表者は考える。

本研究は、文化的盗用という人類学的な問題意識を入り口として、美的判断の相対性や芸術にお   ける道徳の問題といった美学における基礎的な議論を、文化の多様性やマイノリティの権利が強調される傾向にある現代の状況に鑑み再考する、という意義を持つ。

発表資料PDF:「文化的性質を含む作品の鑑賞における諸問題
―文化的借用の議論をてがかりに―:Jean Lin(東京大学)」

10.03
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