- 10月3日(土)
- 一般発表
- 14:50−15:30
- 〈オンライン1〉音楽と音
「Sound/Art」展(1984)のパースペクティヴ
―〈サウンド・アートとは何か〉とは何か―
中川 克志(横浜国立大学)
本発表では、ウィリアム・ヘラーマン(William Hellermann, 1939-2017)という作曲家が企画した 1984年の「Sound/Art」展という展覧会に注目し、その展覧会図録やプレスリリースなど関連文書を検討することで、「サウンド・アート」という言葉、ジャンル、概念がどのように理解されていたのかということを考察する。プレスリリースによれば、この展覧会の先行事例として「Sound」展(1979年)、「Musical Manuscripts」展(1980年)、「Soundings」展(1981年)という三つの展覧会が意識されていた。これらの展覧会の関連文書もあわせて検討することで、(少なくとも 1970年代後半から80年代前半のニューヨークを中心とする)現代芸術の文脈に音はいかなるやり方で位置付けられたのか、ということを考察する。
1984年の「Sound/Art」展は、アラン・リクト『サウンド・アート』(2007 年、邦訳 2010 年)や 2015年頃までの Wikipedia の「sound art」の項目では、名称に初めて「サウンド・アート」という言葉を冠した展覧会として記載されていた。ただし、近年のサウンド・アート研究の進捗は、「sound art」という言葉の初出が 70年代にまで遡ることなどを発掘してきた。それでも本発表で1984年のこの展覧会に注目するのは、この展覧会とそのプレスリリースで言及されるいくつかの展覧会をまとめて検討することで、研究が進捗したとはいえ未だ明らかにされたとは言い難いこの時期のサウンド・アートをめぐるパースペクティヴを析出できるからである。
芸術の文脈に音が導入された経緯を考察した先行研究はいくつかあるが、Holly Rogers, Sounding the Gallery (2013)やPaul Hegarty, Rumor and Radiation (2015)はビデオ・アートに重点を置くものだし、Caleb Kelly, Gallery Sound (2017)は音を用いる視覚美術の事例研究といえよう。本発表では、個々の作品ではなく展覧会の関連文書に着目することで、音が芸術の文脈のなかに導入されるやり方を考察する。〈未来派やダダやキュビズムといった変数を操作することで現代美術の歴史と現代音楽の歴史とを融合させる物語〉を析出したい。
こうした作業を行うことで、(70-80年代における)音楽と視覚美術とサウンド・アートとの関係性について考察し、そこにおける音を扱う芸術の意義を明らかにできるだろう。また、さらには、本発表のように〈サウンド・アートとは何か〉と問うことにはいかなる意義があるのかということについても問題提起できるだろう。
発表資料PDF:「「Sound/Art」展(1984)のパースペクティヴ
―〈サウンド・アートとは何か〉とは何か―:中川 克志(横浜国立大学)」
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