10月4日(日)
若⼿研究者フォーラム
17:50−18:20
〈オンライン2〉美術2

ウィリアム・ブレイク《日の老いたるもの》における円環の象徴表現
―負の側面を象徴する太陽との関連性を中心に

中嶋 康太 (慶應義塾大学)

本発表はウィリアム・ブレイク(1757-1827)の代表的な版画作品である《日の老いたるもの》の 構図に重要な役割を果たしている画中の円環状の空間表現について、その象徴的側面を明らかにすることを試みるものである。この作品は 1794 年にブレイクが挿絵と詩の両方を手掛け、印刷した詩『ヨーロッパ一つの予言』の口絵として製作されたものである。この作品には、太陽のような円環の中の老人が、左手に持ったコンパスを画面下部に向かって差し伸べている様子が描かれている。

これまで、この作品に対しての研究は数多く⾏われ、主題解釈だけでなく、ジェーン・ハグストラムを始めとする画中の⼈物像を中⼼とした典拠の分析や、アン・K・メラーなどによる幾何学性を持った構図についての分析が試みられてきた。さらに、画中のコンパスについても、その象徴性に着⽬したアンソニー・ブラントによる研究などが⾏われてきた。その結果、この作品がブレイクによって創作された理性を象徴する神であるユアリズンが、コンパスによって世界を創造する場⾯を主題としていることや、画中の表現の典拠としてジェームズ・バリー《リア王とコーデリア》やニュートン『プリンキピア』英語版の⼝絵などが明らかにされてきた。

一方で、老人が座っている、あるいは身を乗り出している円環に関しては、その構図についての分析が主であり、象徴的意味や典拠の側面からの解明があまり進められておらず、十分に議論されて来なかったと言える。しかしながら、この円環は《反逆天使の墜落》や晩年に製作した『創世記』の挿絵において、人物像と共に引用されており、ブレイクがこの円環に対して何らかの意図を含めなかった可能性は低いと考えられる。

そこで、本発表では《日の老いたるもの》以後の作品における円環の引用と主題の類似を出発点とし、円環を太陽と関連付けてきた先行研究を踏まえた分析を試みたい。それによって、この表現が彼独自の負の側面を象徴する逆説的な太陽であることを明らかにする。そのため、第一に《反逆天使の墜落》や『創世記』を分析し、これらの作品の主題と表現における共通項を示し、彼が何らかの象徴としてこの円環を利用したことを示すことを試みる。次に、先行研究の中で、象徴性を持った太陽の一例として指摘されている『ロスの歌』の挿絵や《アダムを創造するエロヒム》との共通項を示すことで、《日の老いたるもの》以後の作品の円環がこの逆説的な太陽を引用していることを明らかにする。結果として、これらの分析を統合し、円環の象徴性を明らかにすることで、一連の作品のさらなる解釈を試みたい。

以上の分析によって、当作品における彼独自の象徴表現への理解をより深めるだけでなく、ブ象徴表現を軸としてブレイクの難解で複雑な絵画間を繋げるアプローチを深めることができるだろう。

発表資料PDF:「ウィリアム・ブレイク《日の老いたるもの》における円環の象徴表現
―負の側面を象徴する太陽との関連性を中心に:中嶋 康太 (慶應義塾大学)」

10.04
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