10月4日(日)
若⼿研究者フォーラム
17:15−17:45
〈オンライン1〉音楽

もう⼀⼈の「ドイツ的」作曲家
―W. ニーマンによる伝記で描かれたブラームス像―

⽯井 萌加(東京⼤学)

本発表では、ドイツの⾳楽評論家、作曲家、ピアニストであった W. ニーマン(Walter Rudolph Niemann, 1876-1953)が執筆した、作曲家ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms, 1833-1897)の伝記(W. Niemann: Brahms, 1920.)を扱う。ニーマンの伝記の中でブラームスが、過去のドイツの作曲家をいかに引き継ぎ、ドイツ⺠族の精神⽣活を⽀える存在としていかに記述されているのかを明らかにする。特に注⽬するべき点は、ニーマンがブラームスを、ヴァーグナーとは別の側⾯から「ドイツ⺠族」を象徴する作曲家として評価している点である。ニーマンによれば、外向的でドラマティックなヴァーグナーの作品とは対照的に、ブラームスの作品は、内に熟練した内的なものである。そして、そのようなブラームスの⾳楽がもしヴァーグナーの⾳楽に吸収されてしまっていたら、ドイツの⾳楽⽣活は⼀⾯的なものになってしまっただろうと述べる。この主張を裏付けるためにニーマンは、ブラームスの作品を扱う章において、バッハやヘンデル、シューマンなど過去のドイツの作曲家を挙げ、ブラームスがドイツ⾳楽の「最後の偉⼤な代表者」であったことを論じる。

発表者はこれまでに、ブラームスの出⾝地であるハンブルクで 1933年5⽉に⾏われた⽣誕100 周年記念⾳楽祭の関連記事を分析してきた。ナチスが政権を奪取して3か⽉あまりであった当時、「退廃」⾳楽に対抗しドイツの純粋な遺産を守る作曲家としてブラームスが記述されることがあったことを明らかにした。ニーマンは、1933年5⽉7⽇の新聞 Hamburger Nachrichten にてブラームスについて⼈種主義的な表現を⽤いて記述し、ブラームスこそが最もドイツ的な作曲家であると述べた⼈物である。それに先⽴って執筆した⾃⾝のブラームス伝においてニーマンがブラームスを「ドイツ(⺠族)の精神⽣活」の⼀側⾯として評価したことは、後のナチス体制下で唱えられた、「退廃」⾳楽に対抗しうるドイツの純粋な遺産としてのブラームス、という⼈種主義思想の影響を受けた作曲家像に通じる。

20世紀前半のドイツでは、ナショナリズムが⼈種主義思想と結びついていた。ブラームスの受容研究においては、そのようなナショナリズムとブラームス像との関係性は⾒過ごされてきた。このような問題意識のもとで発表者は、20世紀前半のドイツで、ブラームス像が⼈種主義思想の影響をいかに受けていたのかについて研究している。ブラームスがドイツの作曲家の系譜の中でどのように位置づけられているか、という観点から伝記を分析することで、ニーマンが1933年に提⽰した⼈種主義的な作曲家像の形成過程を明らかにできる点が、本発表の意義である。

発表資料PDF:「もう⼀⼈の「ドイツ的」作曲家
―W. ニーマンによる伝記で描かれたブラームス像―:⽯井 萌加(東京⼤学)」

10.04
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