- 10月4日(日)
- 若⼿研究者フォーラム
- 16:40−17:10
- 〈オンライン1〉音楽
アナログメディアのリバイバルにおける「ハイ・ファイ」と「ロー・ファイ」
中村 将武(東京⼤学)
録⾳再⽣機器や⾳響メディアに関しては伝統的に「ハイ・ファイ(Hi-Fi)」、つまり⾳響的な忠実性が⾼い状態が中⼼であるように扱われてきた。そのような傾向を反映して、Sterne(2002)や Thompson(1995)などの聴覚⽂化論や技術史などの研究も、その構築性を暴く批判的な形ではあるが「ハイ・ファイ」を主題としてきた。このような状況において、忠実性が低い状態である「ロー・ファイ(Lo-Fi)」は積極的に論じられては来なかった。このような状況を踏まえ本発表では、⼀般的に「ロー・ファイ」とされることの多いアナログメディアの受容を分析し、これまでの研究では焦点の当てられなかった録⾳再⽣機器に関する「ロー・ファイ」に関する検討を⾏う。具体的には 2010 年代におけるレコードやカセットテープなどのアナログメディアの流⾏を対象として、当該年代の主に⽇本における、雑誌、新聞、インターネット上の記事などの⾔説の分析を通してそれらを取り巻く価値について明らかにする。
⾔説からアナログメディアのリバイバルは当然ながらその「ロー・ファイ」性により評価される⾯を持っていることが明らかになる。ただし、それは従来述べられてきたような⾳響的、技術的な忠実性の低さではなく、Harper(2014)が「ロー・ファイ・ミュージック」という⾳楽ジャンルに関して述べた、「ロー・ファイ」と関連しながら⾳楽やそのアーティストの純粋性やプリミティブ性、あるいはアマチュア性などの諸価値と関連するような、より広義の「ロー・ファイ」である。ただし、Harperが述べた特徴が全てこのリバイバルに当てはまるわけではなく、アナログ性による「ロー・ファイ」の評価など、「ロー・ファイ・ミュージック」と異なる特徴も存在する。また、多くの⾔説においてノスタルジアとの関連が述べられており、しばしば「ロー・ファイ」であることとノスタルジアが同⼀視される傾向が確認できる。
以上の様に広義ではあるが、アナログメディアは「ロー・ファイ」性と関連づけられ理解されている。⼀⽅で「ハイ・ファイ」な点でそれらを評価する⾔説も確認された。このことは⾳響再⽣技術における進歩史観の影響の強さを⽰すとともに、⼀⽅でこれまで述べられてきた技術的な進歩史観と異なる形での「ハイ・ファイ」の存在を⽰しており、当概念に関しても従来のような⼀元的な捉え⽅ではなく、その多様性に関する検討の必要性を⽰唆している。
以上のように、本発表は、これまでの研究で⾏われなかった「ロー・ファイ」なメディアとして、アナログメディアのリバイバルに関する検討を⾏った。アナログメディアのリバイバルについては、「ロー・ファイ」だけでなく「ハイ・ファイ」も加えた両者が絡み合いながら、それらを取り巻く様々な価値との関連の下に理解される複雑な事象であることが明らかになった。
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