- 10月4日(日)
- 一般発表
- 14:10−14:50
- 〈オンライン1〉美学
描写の再認説再考
―カテゴリ化能力に基づく考察
出村 民(大阪大学)
描写理論は、画像が記号システムとして固有のあり方で対象をどのようにして再現しているのかを説明しようとするものである。1960年代のゴンブリッチやグッドマンの主張を嚆矢として、分析美学の一テーマとしてこれまで複数の理論が提案されており、現在も議論が続いている。シアーやロペスによって提案された再認説は、人の視覚的再認能力によって、画像表面の線や形、色などが示す特徴から描写対象を画像の中に認めることができるという立場である。再認説の長所は、キュビスムのような非写実的絵画を含む、多様な画像様式に対して統一的に描写を説明しうる点にある。また、画像と対象の視覚的類似に依拠する描写の類似説については、その類似点の明確化が必要であるとの批判があるが、再認説は視覚に着目してはいても、類似に基づかないため同批判が当てはまらない。その一方で、再認説は画像表面上の線や形、色などがどのようにしてその描写対象の再認を導くのかを説明していないという本質的な指摘がされている。
本発表では、認知心理学で知られているカテゴリ化能力に基づいて再認過程を説明し、上述の批判への応答を試みる。視覚的なカテゴリ化能力は、対象を見ることにより獲得する視覚的特徴を事例としてカテゴリ学習を行うことと、後にその対象と遭遇した際にはそのカテゴリに基づいて同定することからなる。カテゴリ化能力に基づく再認説の再考は、描写理論を認知心理学的な知覚の描像に基づいて説明しようとする試みである。
最初に、いわゆる写実的な画像を想定して、実在する対象を見ることでカテゴリ学習が行われ、そのカテゴリに基づいて画像の中に描写対象を再認しうることを説明する。カテゴリによる対象の把握は、視覚的学習によって形成されたカテゴリを構成する対象の特徴と、まさに見ているものの特徴との一致度合いが高い場合に、同じカテゴリのものとして同定することと言える。このことから、画像にある対象を認めるのは、対象と画像が示す特徴が同一の視覚的カテゴリに属することによってであり、このようなカテゴリに基づく同定によって画像的再認が説明される。
次に、カテゴリの内容が学習によって変化しうることに着目し、非写実的な画像においても描写対象が把握できることを説明する。対象の特徴が特定の条件に一致することでは帰属が決まらないようなカテゴリでは、カテゴリの典型例あるいはカテゴリに属する他の事例と一定程度特徴が一致すれば、今見ているものはそのカテゴリに属するものとして把握される。このような家族的類似性に基づいて、必ずしも写実的でない画像であっても、画像にその対象を認めることができる。さらには、画像を見ることによって追加的にカテゴリ学習を行うことで、カテゴリそのものが変化しうることも、非写実的な画像の対象把握を容易にし、かつ多様な様式における対象把握を可能とする。
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