- 10月4日(日)
- 一般発表
- 9:30−10:10
- 〈オンライン1〉彫刻論
彫刻の再現空間と身体空間
中村 泰士(パリ第一大学)
本発表の目的は、複数の様態が存在しうると考えられる彫刻の再現空間についてフッサールにおける想像、像意識の観点を援用して整理を図るものである。彫刻の再現空間には概して三種類のあり方が存在する。①は彫刻とその周りの空間を知覚されたままのものとして捉えるが、感性的意識の伴う場合である。② は観者が会する現実空間に括り付けられない、彫刻及びその周囲を含んだ再現空間を想像する場合であり、③は彫刻の再現空間を観者の会する現実空間において想像する場合である。①は③の変種とも考えられる。
先行研究においては、スーザン・ランガーが彫刻の再現はその運動可能性によって周囲の空間を組織するとするが、再現空間はどこにも位置しない仮想的な視覚的幻影(illusion)であると位置付け、②に近い立場を取っている。これに対して、ロバート・ホプキンスはケンダル・ウォルトンの想像論を取り入れながらランガーの立場を継承しつつ、観者がその身体視点において再現された彫刻と周囲の空間を想像すると論じ、③の立場を取っている。他方、ウォルトンは絵画の再現はどこにも位置しない虚構世界(②)であるとするが、彫刻の再現は、コンコード橋の民兵像(The Minute Man)を例にとり、現実空間の中で想像されるとして、③の立場を論じている。
フッサールは草稿集『想像、像意識、想起』において観者による対象の主題化、現実措定の態度を媒介として知覚、想像行為を論じており、その観点は芸術作品の再現様態の説明に資する。像意識は「像物体」(Bildding, 絵の具の物理像)、「像客体」(Bildobjekt, 絵画の像)、「像主題」(Bildsujet, 描かれた対象)に分類される。像物体、像客体は観者の身体空間とともにあるが、像主題は観者の身体空間と独立に存在しうる。周囲を含んだ彫刻像主題の想像行為は②の場合に該当するが、像主題として現実空間を組み込む時には③に位置すると言える。また、フッサールは像主題は像物体や像客体に還元しうるとして、そのような想像行為を知覚に近い「知覚的想像」(perzeptive Imagination)と名付けた。この行為は①の場合に該当する。私たちがミケランジェロの『ダビデ』を見てダビデとともに戦場や兵士やゴリアテを心の中に想像する時、その行為は「再生的想像」とされ、再現空間は現実空間とは離れて存在する(②)。他方、像主題としてダビデとその周囲を想像しアカデミア美術館内に位置付ける場合には③に相当する。さらに、白い大理石のダビデを美術館内において感性的に認識する時、像主題は像物体に重ね合わされ(知覚的想像)、再現空間は身体空間に同一視される(①)。
再現空間が身体空間に位置するかどうかは、私たちの知覚している環境を主題化するか否かの想像の仕方によって左右されると考えられる。
発表資料PDF:「彫刻の再現空間と身体空間:中村 泰士(パリ第一大学)」
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